第100回箱根駅伝予選会が終わりました。結果は下表の通り、総合10時間49分07秒の20位で、予選突破を果たすことができませんでした。
1kmで古川が捻挫し、痛みを抱えたままの戦いになった他、8km付近では、富山と丸子が前の選手たちの転倒に巻き込まれて転倒するアクシデントがありました。
悔やまれる要因はありましたが、予選通過となる13位とは、9分20秒という大きな差(開き)には、悔しい感情というより、いろんな意味で実力不足を突き付けられた気がします。
この“いろんな意味で”ということを説明できる考察になればと、今回の箱根駅伝予選会のを振り返ってみたいと思います。
▼気象条件が好転したことによる記録向上
昨年は、多くの選手が高温多湿の気象条件に苦しめられ(どちらかというと多湿)、各校ともタイムは伸びませんでした。下表は、昨年(99回大会)と今年(100回大会)の記録を比較したものですが、右列のタイム短縮で示すように、大幅な記録の向上が見られました。
100回記念大会という意気込みの表れだとは思いますが、気象条件の違いが、この記録向上の最大の要因であることは間違いありません。
気象コンディションの比較をすると、
・2022年 99回大会:気温20℃→21℃ / 湿度85→75%
・2023年100回大会:気温16℃→18℃ / 湿度55→50%
不快指数で表すと、昨年は68を超えていたが、今年は60程度でした。相当に走りやすい気象条件であったことがわかります。
各大学が軒並みタイムを短縮したのもうなずけますが、それにしても、予想以上の記録向上でした。昨年との比較では、通常の予選通過ライン10位の記録が10分57秒、記念大会の今年の通過13位で12分15秒も短縮されています。
▼予選通過圏外からの驚異的な巻き返し
昨年の予選敗退から今年 予選突破を果たした日本大、神奈川大、中央学院大、東京農業大、駿河台大は、12分~16分もの記録短縮を果たしています。一人、1分12秒~1分36秒も短縮している計算です。
2年連続トップ通過の大東文化大学が7分00秒(一人42秒)の短縮に留まっていることから、全体(予選通過圏外)のレベルアップが図られたことは明らかです。予選通過圏外の大学は、予選通過圏内にいる大学に比べて、記録短縮が倍近い驚異的な伸び率になっています。
それに比べて、筑波大学は4分43秒しか記録を短縮することができませんでした。昨年と今年の気象条件の違い(好転)から、この程度のパフォーマンスアップでは、太刀打ちできるわけがありません。実際に、筑波大が今年13位になって予選通過するには、14分04秒の記録短縮が必要でした。
ですから、さらに約10分(一人1分)の短縮が求められたわけです。さすがに・・・それは無理だよ!と言いたくなりますが、現に、4校はそれを成し遂げているわけですから、伸び幅の限界や程度を、自分たちの尺で測っているようでは、現代の箱根駅伝には置いていかれるだけだと痛感しました。
▼1万mの走力が表れた今年の予選会
ただ、今回のチーム力を、エントリー選手10人の1万m平均タイムで比較すると、筑波大学の成績は妥当であったと言え、10000m持ちタイムの上位13校がそのまま予選通過したようなかたちになっています。唯一、10000mランキング3位の東京国際大と16位の駿河台大が入れ替わっただけです。
今年の予選会は、トラック種目の走力がそのまま表れた結果だということが言えると思います。予選会10位以内で見ると、日本大学の29分19秒が最も遅いタイムになり、さらにその上にシード校10大学がいることを考えると、唖然としてしまいます(唖然としているようでは駄目ですが・・・)。
筑波大学は、1万mランキング22位のところを20位なので、健闘したと思われる方はいると思いますが、毎年、このランキング順位を7校ほど逆転してきたので、今年は9校を逆転する気持ちで強化に励んできました。
1万mの記録通りになった今年の予選会において、筑波大学は順当な結果だったと受け入れるべきなのかもしれませんが、我々の熱意とは遠く離れた結果だったと言っておきます。
気象条件が悪くなる=高温多湿の場合は、暑熱馴化とスタミナが必要になるため、10000mのランキング通りに決まるとは限りませんが、来年に向けては「10人平均で29分20秒という記録を目標にしていかなければならない」と覚悟を決めて取り組んでいきたいと思います。
▼筑波大学が10000mの記録を伸ばすのは大変
ただ、それが筑波大学にとっては至難の業であることを少し説明したいと思います(諦める気はありませんが)。下表を見ていただくとわかりますが、今回エントリーした14人の高校時代の5000m平均タイムが15分18秒で、予選会で10番目までに入った10人の高校時代の5000m平均タイムは、なんと15分16秒でしかありません。
第100回予選会の出場校でかなり遅い部類に入り、後ろから数えたほうが早いと思います。もしかしたら、箱根駅伝出場を目標に掲げている大学の中では最下位かもしれません。そのくらい低いタイムだと思います、
その選手10人が持つ現在の10000m平均タイムが29分53秒です。ここまで引き上げている事実は、学生の努力を示すものだと思いますが、それを来年までに10人の10000m平均タイムを29分20秒に伸ばすのは、相当な努力の上積みが必要で、大変な作業が待ち受けるであろうことが容易に想像できます。
そんなことを言っても始まらないので、そこを目指して、今から早速、具体的な目標値として向き合っていきたいと思います。
▼一万mの記録通りの結果ではなかった筑波大学
今回、涼しい気象条件だったので、10000mの記録がそのままハーフマラソンのパフォーマンスに反映されやすいと前述しましたが、筑波大のチーム内の成績(順位)では、その通りになりませんでした。
10000mチーム内ランキング9位の塚田がチームトップで、ランキング7位の1年生 川崎がチーム5位、ランキング11位の長井がチーム7位という結果になっていることが、今回、20位に留まった理由であることが結果(チーム内順位)から見えてきます。
塚田は、ロードになると急激にパフォーマンスを上げる選手ですが、10000mで9番目の走力しか有さない選手であることに変わりはないので、この逆転現象が起こった事実に目を向けなければなりません。直近(9/23)の記録会でも6位だった選手が、ハーフマラソンでチームトップになるのは、チームの実力発揮度から言って、あってはならないことです。
つまり、塚田の快走を褒める一方で、その他の10000m走力上位者の不甲斐ない走りを叱責する必要が出来てきます。まあ、私の指導にも何らかの問題があるはずなので、もちろん叱責はできませんが、少なくとも塚田より4人は速く走らなければなりませんでした。
つまりは、63分36秒以内に4人がいたことになり、ここに記録の伸び幅を小さくした最大の要因がある考えられます。もちろん、タラレバの話であることは承知の上で、パフォーマンスが低調に終わった考察という立場での言及であることを理解していただきたいです。
塚田が走り過ぎたのか!?という議論もなくはないですが、陸上競技の世界で、“まぐれ”はありません。塚田が100%の力を発揮できたとして、上に来るはずの4人の実力発揮度が低かったと言って問題ないと思います。それは、それまでの練習過程を知る指導者として断言できます。
同じことが、1年の川崎颯を基準にして言えることがあります。川崎は、夏の選抜合宿に唯一残った1年生です。ランニングフォームは課題だらけですが、天性の素質と強い筋腱に支えられて、スポーツ障害を回避しながら順調に力を付けてきました。相当な選手になる可能性を秘めている学生です。
ただ、1年生なだけに、ハーフマラソンとなると、持久力の観点から走力評価は下がります。練習においても、20kmを超える距離の練習では、後半のパフォーマンス低下が顕著に表れていました。だからこそ、1万mのPBや長距離走の練習状況、経験値を加味すると、長井や古川、富山などは川崎よりも上の順位でゴールしなければならなかったはずです。
▼不発に終わった持久力
毎年9月末に実施する1万m記録会は、予選会のレース後半の粘りを確認するために、敢えて調整せずに臨ませています。9月23日の結果からは、例年よりも手応えを掴むことができていました。「持久力に不安なし!」という判断をしたわけですが、今回の予選会では、後半の失速が目立ちました。
それは何故か?正直に言うと、現時点でその答えは出ていません。持久力はあっても、スピード持続力(←レース速度の)が不足していたということになるのでしょう。速いペースを持続する練習が足りていなかったのだとしたら、今回の涼しい気象条件下のハーフマラソンでは、その不足が如実に表れてしまったような気がします。
しかし、毎年、同じような練習過程を踏んで、予選会でスピード持続力勝負でも負けていなかった卒業生のことを思い出すと、そうではないとも思えてきます。ここは、きちんと検証して、悶々と進んでいくことがないようにしたいと思います。
さらに敗因を挙げるとすると
▼薄い選手層
薄い選手層という表現を使うのは、トラック種目の走力が高い選手が少ないという意味です。前記の表の通り、高校時代に5000mで15分を切っている選手は少ないです。現在までに記録を伸ばし人数は増えているのですが、箱根駅伝予選会で戦うためには、最低でも14分半を切ることが必須条件ですし、さらに、そのレベルを向上させる必要があります。
現状は下表の通りなので、これでは、1万mの10人の記録を29分20秒まで持っていくのは不可能です。
そこで、上表の下部に示したような内訳で、来夏までに14分半以内の選手25人を揃えて、箱根駅伝予選会を戦う準備に入っていく必要があると思っています。
▼選手層を薄くさせるスポーツ障害の発症
今回は、ハーフマラソンでは絶大な信頼があるエース皆川の怪我による欠場も響きました。皆川がいて、塚田の前に5人がゴールしていれば、状況は一変していたと思えてきますし、3年生の吉田も予選会のエントリー後にスポーツ障害を発症してしまい、戦力外になってしまったことも痛かったです。
また、他にもスポーツ障害発症に伴う練習離脱者がいて、選手層が薄くなってしまっている現状があります。期待を込めて名前を挙げれば、3年:長谷川、2年:鍔・大津・堀口・松浦、1年:伊佐・立野・余村、などがそうです(他にも可能性のある学生は多いです)。高いポテンシャルを有する彼らが予選会の選手争いに絡めなかったことが、チーム力の低下を招いた要因の一つと言えると思います。
在籍する選手の層が薄いわけでは決してありません。スポーツ障害発症が招く選手層の希薄化をどう防ぐかが重大な問題として、常に立ちはだかるのが筑波大学なのです。
理由は様々です。高校までに経験のない練習量の多さ(キャパオーバー)、選手自身の筋腱骨の弱さ、ランニングフォームの課題、文武両道によるケアに費やす時間の足りなさ、睡眠時間の少なさ、など挙げられます。
これらの課題に対策を講じてはいますが、カラダが追いついていない現実があります。授業の忙しさを考慮してのグループ化を図るなど、この機会に考えていきたいと思っています。
▼どのような成長過程を踏ませるか
学生自身の成長と予選会で戦えるチームになることは、イコールではありません。ハッキリ言うと、成長速度の話です。
例えば、高校時代に5000mで15分台だった学生が、小さな自己新を積み重ねて、14分台を出したとしても、予選会で戦えるチームにはなりません(翌年を見据えての強化なら問題なし)。その年の予選会で戦うには、直近の記録として前述の14分半以内に成長し、さらに、上の成長を遂げる選手育成をしなければならないのです。
指導者として教育者として、それぞれの側面に立つ身としては、両面に挟まれてのジレンマが生じてきます。その両面を簡単に表現するなら「怪我無く安全に成長を促すが予選会では戦えない」「リスクを承知の上、予選会で戦うチームを作る努力をする」という狭間で活動していくことになります。
5000m 14分台の選手が多く入学してこない “筑波大ならでは” の苦悩がここにあります。でも、だからこそ、学生の成長を育む環境であると言えると思います。
この部分は、筑波大学にとって、永遠のテーマです。詳細は割愛しますが、シーズン中、常に自問自答を繰り返しています。学生たちも、きっと同じです。「僕は、どういう道を辿って成長していけばよいのか」と。
でも、その岐路に立つ学生に、最初から正しい答えは用意されません。「進んだ道を正解にする」強い意志で、目標を達成し続けていくしかないのです。
筑波大学には、そういう気概を持った学生たち多いです。だから、(競技力で言えば)雑草集団のような弱小チームが、箱根駅伝を目指すことができるのだと思っています。
今年は惨敗と言える結果に終わりましたが、来年に向けて必ず巻き返します。
そのために、今回の敗因がどこにあるのか?をハッキリさせなければなりません。
多く存在するであろう課題を明確にし、一つ一つ潰していく作業を始めていきたいと思います。
これまでも多くの方々にご支援と応援をいただいているので、今回の予選敗退は、期待を裏切るかたちとなり申し訳なく思っています。
でも、箱根駅伝を目指して、苦労しながらも学生たちは文武両道を元気に(ときには疲弊して)邁進しています。そんな学生たちの活動は、皆様のご支援に支えられ、充実したものになっています。本当に有難く思っています。
皆様の支援で成り立つ活動の充実化を競技成績に変換できるよう、私自身も精進を重ねていく所存ですので、今後とも応援をよろしくお願いいたします。
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