第97回箱根駅伝予選会が10月17日に陸上自衛隊立川駐屯地で開催されます。昨年、26年振りに箱根駅伝本戦出場を果たした筑波大学が2年連続出場を目指して予選会に挑みます。
「コロナ禍でどんな準備ができたのか?」そして、「現在のチーム状況はどうなのか?」
弘山駅伝監督から、これまでのチームの活動状況と予選会に向けての近況を報告させていただきます。
2年連続で箱根駅伝予選突破を目指す筑波大学
~コロナ禍でも一段階レベルアップできた理由~
筑波大学 陸上競技部コーチ
男子駅伝監督 弘 山 勉
昨年の秋、青空の下、立川の地で歓喜に沸いた箱根駅伝予選会から1年が経過しようとしています。「あの感動を再び!」と多くの方からよく言われます。確かに、1年前の感動と喜びは、とても大きかった。人生において、あれほどまでに感情を爆発させるような喜びは、なかなか味わえるものではありません。
その2か月後、意気揚々と挑んだ箱根駅伝本戦では、惨敗という屈辱を味わうことになるわけですが、筑波大学が箱根駅伝に返り咲いたことの意味は、その敗戦で薄らぐことはなかったと思います。それを示すかのように、箱根駅伝直後の学生たちの表情は、一点の曇りもない晴れやかな表情でした。当時のレポートでも書いたように、目の輝きが増した感さえありました。
箱根駅伝予選突破と本戦惨敗は、私たちにとって、大きな一歩となりました。26年もの間、箱根駅伝で沈黙を続けてきた筑波大学には、現代の高レベルな箱根駅伝を戦う基準が消え去っていたからです。予選通過の指標さえ有していない大学が、トレーニングや走力をどう評価して高めていけばよいのか、判断のしようがないのは当たり前です。
昨年、予選を通過したことで、一つの指標(基準)を持つことになりました。ただ、それは高温多湿のハーフマラソン(立川のコース)に限っての指標です。生き物であるレースでは、気象条件が変われば、その指標が意味を成さない可能性があることは、理解しなければならないと思います。
そして、箱根駅伝本戦では、実力不足(低い実力発揮能力を含む)が露呈され、この程度の実力では箱根駅伝で惨敗するというMinimumの基準を持つことになりました。26年振りの出場ですから、このくらいの洗礼が丁度よいのかもしれません(笑)。
ですから、私たちは、昨年の予選会当時のチーム力を上回ることを目指しながら、本戦のシード権獲得に必要な基準を想定(模索)しながら強化を図っていく、というある意味では明確な水準が見える活動にステージアップしたと思っています。
そうは言っても、箱根駅伝本戦直後から予選会までは9カ月半の期間がありますから、そのエネルギーを1月から全開というわけにはいきません。学生たちも私も、まずは、次の箱根駅伝に対するモチベーションをコントロールする時期(1月~3月)を過ごしていました。
2月には、箱根駅伝の1区で快走した西研人が香川丸亀国際ハーフマラソンで1時間1分56秒の筑波大学新記録をマーク(2分も更新)したことに少しの自信を持ちながら、3月の日本学生ハーフマラソンで自分たちの競技レベルの評価をするつもりでいました。その評価を基に、春には、スピードに磨きをかける予定を組んでいました。
ところが、新型コロナウイルス感染症が世界中で広まり、社会活動や人々の生活が一変しました。大学は立ち入り禁止、授業は全てオンライン、そして、課外活動も当然ながら禁止となり、自主練習すら制限がかけられました。大学の全運動部の学生に「ジョギング程度に留めるように」と。
もはや、成す術が無い状態。ひっそりと目立たぬように、自主練習を営んでいく時期に突入しました。「社会はどうなってしまうのか?」「我々は一体どこを目指して、どう歩いていけばよいのか?」まさに、暗中模索の始まりだったと思います。
4月~6月中旬の2カ月半、私たちは、一切のチーム活動を自粛し(実際は禁止)、個人練習にしました。計画を立て、オンラインで学生たちと話し合い、フォーム改善のポイントをレクチャーしました。「全ての練習を一人で実施すること」という条件の下、計画に則り、各学生が粛々と練習を消化していく日々が続きました。
走るのは一般道の歩道。唯一、週に1回だけ公園の周回コースを利用させてもらいました。公園内を速く走ると、自粛警察の方々からお叱りを受け、そのたびに、学生たちは平謝りしていたようです。精神的には、ひじょうに厳しい期間だったと思います。(それは、社会の全ての人が同じだったでしょう)
自主練習の期間中、私が言い続けたのは「箱根駅伝予選会が開催されると信じて練習していくしかない。そのモチベーションを下げて準備を怠ったら、後で後悔する。それが嫌なら一人でも頑張るんだ!」という言葉でした。学生たちも、オンラインでミーティングしたり、声を掛け合ったりして、最低限の心の触れ合いは維持していたようでした。
非常事態宣言が解除された6月中旬からは、開放している近郊の競技場に行き、小グループで練習を開始しました(大学は依然として入構禁止です)。すると、上位の学生たちは、予想以上に、良いタイムで練習するのです。各個人がしっかりやっていたことが示されました。その証拠に、7月になって、東海大記録会やホクレンディスタンスチャレンジで、西や岩佐が好記録で走り、学内記録会でも多くの学生が、自己新をマークしました。(西:13分54秒=筑波大歴代2位 / 岩佐:14分05秒など)
「これなら何とかなるかもしれない」と思いながら、8月から活動が再開できるものと信じて、合宿の計画を立てていました。しかし、大学からは、一向に部活動禁止解除の通達はされず、焦りを感じ始めていました。やっと特例措置という制度ができ、8月8日になって、陸上競技部は、日本インカレと箱根駅伝予選会に向けての活動が許可されました。
4月から8月7日に至るまで4カ月間に渡る課外活動禁止期間が、やっと終わりを告げました。長かったです。間一髪のところで、計画通りに8月10日から合宿をスタートさせることができたことに安堵したものです。例年通りに、8月は、福島(西郷村)と岩手(北上市)、9月は、熊本(阿蘇市・玉名市・水上村)と長野(菅平高原)で合宿できたことは、本当に有難かったです。
合宿が始まってからは、「春の遅れを取り戻せ」とばかりに、学生たちは、高い集中力をもって厳しい練習を乗り越えてくれました。昨年のトレーニングをなぞりつつ、さらにそれを上回ることができれば、それは成長を意味します。学生たちも自身の記憶を辿りながら、「過去の自分を超えろ!」とチーム内で競り合いつつも、過去の自分がライバルになっていたような気がします。
そんな意識で練習しているのですから、チームが成長するのは当たり前です。トレーニングのタイムで成長の手応えは十分にありましたが、9月の1万m記録会で練習の成果を確認することができました。17人走って、8人がベスト記録を更新し、初めて1万mを走った1年生が30分00秒をマークするなど、チームの活気が表れた記録会になったと思います。
そして選ばれた14人が下表の学生です。この中から大学を代表して12人が予選会を選手として走ります。
第97回箱根駅伝予選会エントリー選手
選手名 | 所属・学年 | 出身校 | 1万mPB |
---|---|---|---|
◎大土手嵩 | 体育・4 | 宮崎 小林 |
29’31″58 |
児玉朋大 | 体育・4 | 熊本 千原台 |
30’02″21 |
猿橋拓己 | 理工・4 | 神奈川 桐光学園 |
29’24″80 |
相馬崇史 | 体育・4 | 長野 佐久長聖 |
29’27″77 |
田川昇太 | 医学・4 | 長崎 長崎西 |
30’04″05 |
西 研人 | 体育・4 | 京都 山城 |
29’20″39 |
伊藤太貴 | 体育・3 | 愛知 岡崎北 |
29’56″04 |
〇杉山魁声 | 体育・3 | 千葉 専大松戸 |
29’26″20 |
〇岩佐一楽 | 体育・2 | 千葉 東邦大東邦 |
29’28″25 |
五十嵐優汰 | 体育・2 | 千葉 専大松戸 |
30’42″55 |
福谷颯太 | 体育・2 | 東京 日野台 |
30’00″86 |
金田遼祐 | 体育・1 | 千葉 専大松戸 |
30’53″91 |
平山大雅 | 体育・1 | 栃木 宇都宮 |
30’18″38 |
皆川和範 | 理工・1 | 埼玉 春日部 |
30’00″48 |
(◎駅伝主将 〇駅伝副主将)
正直に申し上げると、この半年間は目の前のことに向き合うのに精一杯という日常を過ごしてきました。4ヶ月間のチーム活動自粛というハンディは大きく(他大学の状況がわからずにハンディと言っていますが、昨年のチーム活動との比較においても明らかにハンディです)、私には、ギリギリ間に合った感はありますが、学生たちの気持ちは違ったはずです。「絶対に間に合わせる!」という強い気持ちが学生たちにあったからこそでしょう。でないと、今年の状況で、こんな短期間で間に合うはずがありません。
学生の頑張りには、本当に頭が下がります。ただ、そこには、昨年に学生たちが作り上げた基準の存在があったから、できたような気がします。それは、単にタイムだけではありません。チームの結束と運営という大切な部分も含まれています。
一つ例を出すと、8月の後半から選抜チーム合宿に移行するのですが、それに選ばれなかった3年生が箱根駅伝予選会までは、プレーイングマネージャーを務めるというルールを、学生たち自らが設けたことに表れています。今現在、5人の3年生がプレーイングマネージャーを務め、走りながらチームをまとめる役割を果たしています。非常に安定したチーム状況を作り上げてくれています。
ですから、昨年とのチーム力の比較でいうと絶対評価は上だと思います。ただ、大会は、相対評価となる他チームとの競走ですから、予選会でどんな評価が下されるのはわかりません。レースへの準備段階では、相対評価という見えない敵を見据えて、本番では今まで見えなかった相対評価(敵)と対峙して戦うことになります。さて、どんな戦いになるのか。ふたを開けてみないと誰にもわからない戦いになりますが、自信を持って臨むことができれば、チャンスはあると思っています。
2年連続で予選通過を果たし、昨年の結果がフロックでなかったことを証明するとともに、箱根駅伝前回大会の雪辱を果たす権利を獲得したいと思います。そのために、苦しい状況を乗り越えて、学生たちは頑張ってきました。そんな学生に熱い声援をよろしくお願いします。
最後に、
私たちは、本学卒業生や陸上競技部OBOG会、クラウドファンディングご支援者の皆様に応援・ご支援いただくことで、箱根駅伝を目指すことができています。説明責任があるので、春から振り返りつつ、現況報告を兼ねて意気込みを書かせていただきました。
社会全体が大変な苦労を強いられる状況が続いていること、学内外ともチーム活動に批判的な意見が多々あったことから、これまでチームからの情報発信は控えさせていただきました。この点、どうかご容赦ください。そして、引き続き筑波大学の学生にお力添えをいただきますようお願い申し上げます。
10月17日に応援してくださる全ての方に良い結果報告ができるよう全力で戦いたいと思います。これからもよろしくお願い致します。