▼厳しさを増す箱根駅伝の予選突破
今年度、第100回記念大会を迎える箱根駅伝は、隆盛を極めるかのうように素晴らしい発展を遂げてきた。その注目度と人気の高まりは、止まりのない青天井のようだ。
箱根駅伝がもたらす様々な恩恵があるからこそ、各校は箱根駅伝に力を注ぐのであろうが、社会が少子化に向かっていることを感じさせない「参戦する大学の増加」には驚くばかりである。
今度の箱根駅伝予選会は、記念大会として予選通過枠が特別に3校増やされる(予定?)。予選突破の圏内にいると目される大学が20校以上にもおよぶ今、この群雄割拠の箱根駅伝予選会を通過する絶好のチャンスが訪れることになる。各校の熱の入れようが半端ないでことは容易に想像できる。
その象徴の一つが、予選通過圏内と目される大学のほとんどが、外国人留学生を擁して予選突破を目指し始めているところに表れている。
予選会がさらにハイレベル化するのは必死で、群雄割拠状態に益々拍車がかかるのは間違いない。我が国立大にとって、さらなる厳しい戦いを覚悟せざるをえない状況に、気を引締めざるをえない。
その激戦の予選会に、東京国際大学や帝京大学、明治大学、中央学院大学など、シード校並みの実力を備える顔ぶれがあるのだから、3つの増枠に、チャンス到来という気分は全くないというのが正直な気持ちである(すくなくとも本学にとっては)。
▼近年の惜敗からは記念大会ならチャンス!?
筑波大学は、2019年に予選突破を果たして(予選会6位)以降、予選通過にあと僅かの年が続いた。
2020年:11位(10位と18秒差)
2021年:13位(2分33秒差)
2022年:15位(4分55秒差)
年々順位を落とし、10位とのタイム差も拡がっている。だが、この差であれば、13位までが予選通過する今年は圏内に入らなければならないと思っている。
いやいや、そんな流暢な気分にはなれない。年々 拡がるタイム差に加えて、外国人留学生を加入する大学が増えていることを考えると、さらなる成績下降は免れないという見立てをしなければならないだろう。
今春、筑波大学は、全日本大学駅伝関東予選会への出場を目指した。8人の平均を29分34秒56という、筑波大学では史上最高記録に引き上げた。
しかし、シード校を除く上位20チームに入ることができず、補欠3番目の23位甘んじた。他大の記録向上は驚異的で、つまりは、関東での1万mの実力(8人)では、全日本大学駅伝のシード8校を含めると31番目となる計算である。
▼夏に逆転する筑波大学
仮に、ランキングそのままを春のチーム力とした場合に、箱根駅伝予選会では(箱根のシード10校を除くので)21番目の評価となる。つまりは、本学より上位の8校に勝たないと予選突破できないことになる。
実は、昨年度も全日本大学駅伝関東予選会も補欠3番目の23位で出場できなかった(今年度同じ)。春時点での1万m走力では関東31位(箱根駅伝予選会出場校では21位)のランキングながら、箱根駅伝予選会では15位になっている。
全日本大学駅伝のシードは8校、箱根駅伝のシードは10校なので、全日本大学駅伝予選の1万mの申し込み記録順に2校マイナスとなるのが、箱根駅伝予選会の1万mランキングである。
年度別に「春時点の関東での1万mランキング」「その年の箱根駅伝予選会の成績」表すと
年度 | 春時点の1万m 箱根予選会 ランキング |
箱根駅伝 予選会順位 |
夏を経て の逆転数 |
---|---|---|---|
2020 | 17位 | 11位 | 6校 |
2021 | 20位 | 13位 | 7校 |
2022 | 21位 | 15位 | 6校 |
2023 | 21位 | ?位 | ?位 |
1万mからハーフマラソンという距離の違いはあるのせよ、筑波大学は春の1万mランキングに対して、毎年、夏を越して7校前後を箱根駅伝予選会では逆転していることになる。
このような例年に習い(希望を持って)、春からの逆転劇を懸けた戦いが7月から始まった。勝負の夏に突入である!
なぜ筑波大学が夏に成長を遂げることができるのか?
なぜ夏が勝負なのか?
▼待ちに待った夏休み
学期中は、授業や研究が忙しい(筑波大学だけが、そうだと言うつもりはさらさらないことは、予め断っておく)。
現在、男子長距離ブロックの所属する学生の4割以上が体育専門学群以外であり、それらの学群は授業が6限(18時)まであることが多い(ちなみに、体育専門学群の授業は5限まで)。
そうなると、練習の開始時刻は18時15~30分である。そこから練習をこなすと、終わりは20時を過ぎる。宿舎に帰って、夕食後に課題やレポートに向かうとなると、いったい、就寝時刻はいったい何時になるのか。
そして、翌朝の6時に朝練習の集合がある。こんなハードな生活で、トレーニング効果を獲得し続けるには、相当な努力が必要だと感じる。いや、至難の業かもしれない(でも、実際は、筑波大学の学生たちは、やり遂げている)。
ましてや、春は、日に日に気温が上昇していくので、忙しさと相まってカラダを消耗させている可能性もある。春学期に記録が伸びにくい状況にあるのは、そういうことなのだろうと思う。
だから、待ちに待った夏休みなのであり、
陸上競技に没頭できる日々は、学生たちにとって、待ち焦がれた「伸びる夏」「強くなれる夏」なのである。
これが、筑波大学が夏に勝負をかけて、箱根駅伝予選突破を狙う理由である。
理由は、もう一つある。
▼選手育成の流れの中で迎える夏
筑波大学陸上競技部(男子長距離ブロック)には、競技実績が高くない高校生が入部してくる。素質はあるが、高校で花を開くような部活動ができなかった可能性があるのかもしれない。
仮に、そうだとすれば、時間をかけて成長を促せば、箱根駅伝予選会で戦うことができるレベルには到達することができるはずだ。
そのため、筑波大学に入学してくる学生たちには、基礎から作り上げるプロセスは欠かせないのである。
その基礎作りは、ただ単に体力を上げることではない。トレーニングを消化するための基盤となるカラダ作りが必要で、筋腱や骨の強化が先決となる。人間のカラダ(組織)は、負荷をかけないと強化されない。少ないトレーニングで強いカラダを作ることは、ハッキリ言って不可能。
そこで、筑波大学では、シーズンを期分けして、選手育成をしている
第1期(冬季)
基礎鍛錬(筋腱強化、総合体力養成)
第2期(春季)
スピード持続力養成(スピード走の強化、フォーム改善)
第3期(夏季)
走り込み(脚づくり、最大酸素摂取能力の向上)
第4期(秋季)
長距離走におけるパフォーマンスの最大化
第3期までが上手くできた時に、第4期で最高のパフォーマンスが発揮されるのだ。いづれかの期間で練習が途切れると最大値が下がるのは当たり前である。
今は、この第3期目の真っ最中。カラダへの負荷が1年で最も高くなる走り込みが敢行される期間である。
1年生は、入学してしばらくの間は、第1期のトレーニングを積むので、第2期が必然的に短くなるので、第3期を乗り越えるのは、なかなか大変だと思う。
▼勝負の夏は、合宿を重ねてステップアップ
夏の強化は9月末までになり、その期間を期分けし、それぞれの期でトレーニングの狙いや獲得したい体力を明確にしている。
第1次強化はすでに終了し、8月から第2次強化、そして、現在は第3次強化となっている。第3次強化から選抜合宿に入っていくのは、例年のパターンである。
我がチームは、様々な工夫をしないと複数回の合宿を実施することができないので、下記の条件が整う地域を探してきたが、今では、合宿の実施場所は定着している。
①滞在費が安くなる国営宿舎がある、または、②自治体から合宿誘致の助成金がある地域
②涼しい気候が期待できる地域
③丘陵地域
という条件で合宿地を選定し、トレーニングの費用対効果を最大限に高めることを目指している。費用を安く抑えることができれば、滞在日数や合宿回数を増やすことができるからである。今年は、6回の合宿実施を目標に、関係者の方々に協力をお願いしている。
以前まで実施していたクラウドファンディングを、昨年から継続寄附型サポーター制度に切り替えて、継続したご支援をお願いしている。その支援の恩恵は計り知れないものがある。本当に有難い限りです。
<筑波大学箱根駅伝復活プロジェクト・サポーター制度>
「文武両道で箱根駅伝を目指す!筑波大学が「継続寄付」で育む応援の輪」
https://blog.readyfor.jp/n/nc12c9a1ffbe0
▼チームが強くなるための夏合宿
現在は、選抜合宿中だが、選抜選手と言っても、筑波大学では、走力の差が大きい。ここに一筋縄ではいかない難しさがあるのが、筑波大学の選抜合宿になる。
レベルが低い底辺を引き上げること(底上げ)が鍵を握るのが、最近の予選会の成績で示されている。
チーム内の上位5人は他大と戦えるが、下位5人は戦えていない。合宿では、上位選手の走力をさらに伸ばしつつ、チームの底上げも図ることが求められる。
「競技力が高い選手が多い」「中位以上で実力が拮抗していて人数が多い」ならば、皆で一緒に!という方法が可能だが、走力に差がある場合、全員を強くするのは、なかなか大変な作業になる。その差が大きいのが筑波大学の特徴である。
言っておくが、私を含め、チームの皆がそれを悲観していない。学生たちは、むしろ、このチーム状況を受け入れている。「全員競技活動=多様な価値、各々の成長とスキルアップ」ということを身をもって知っているからである。
▼学生主体の合宿進行
「この難解な工程をどうプロデュースして、アレンジしながら進めるのか?」そのためには、学生同士の議論(ミーティング)が欠かせない。
その日その日の状態を確認し、グループ形成とシミュレーションを重ねるのだ。このグルーピングと練習の負荷設定は、夏特有の気候により、さらに難しくなる。暑さに強い・弱い、スタミナの有無など、考慮すべき点が増えるからである。
学生が選手としての自分自身をどれだけ正しく評価できるか、チームメイトのことを気にして評価しているか。その評価をテーブルに並べて、練習の組み方を工夫し、方向性を定めていく作業の繰返しの毎日になる。
結局は学生たちに任せる部分を増やしたほうが良いと私は思っている。
指導者の客観的な目と分析が欠かせないのは当たり前としても、学生たちの主観的評価や予測を尊重し、「仲間と共に強くなる」という意志を信頼し、瞬時の判断や考察力、チームワークを育むようにしている。
▼毎日が分岐点
我々の活動(競技)は、常に分岐上に立っている。「今を分析・評価し」「今後を予測し」「その予測から何を考え」「実際に何をするのか」そんな評価と思考、選択、実践を回しながら連続で進んでいくのだ。結局は、PDCAサイクル(Plan-Do-Check-Act cycle)の機能になる。
サイクルだが、通り過ぎた分岐点には戻れないと思ったほうがよい。それくらいの真剣勝負の毎日(分岐の瞬間)だと思う。
チームメイトの数だけ、体力や走力の差だけ、主観的・客観的な評価と意見は増える。PDCAサイクルの中は混沌とするはずだ。だが、それを迷いにしない確信へと変えるチームワークによって、次々と現れる難解な分岐点を通過していく必要がある。その先に、箱根駅伝予選突破があるのだ。
箱根駅伝予選会が、あと50日ほどに迫る今、学生全員がそれぞれの目の前にある分岐点をどう進むのか、チームとしての分岐点を誤らずに選択していく議論と意思の統一ができるのか、緊迫した状況が続く。だが、学生たちには、この緊張感を楽しむ余裕を持ってもらいたいし、持たせたいと思う。
10月14日、「各分岐点で間違わない選択をしてきた」と振り返ることができるように導いていくのが私の役目。コーチングは“導き”と言われる所以でもある。
そういう思いで、学生と共に、毎日の分岐点に向かっていきたいと思います。応援よろしくお願いいたします。
筑波大学 陸上競技部
男子駅伝監督 弘山勉
箱根駅伝出場を目指す国立大学の本気の挑戦!
サポーター募集中!
https://readyfor.jp/projects/Tsukuba_Univ_HakoneEkiden
頑張る学生たちの伴走者(サポーター)として応援していただける方を募集しております。よろしくお願いいたします。