襷を受け取ることも渡すこともなかった箱根駅伝の意味
筑波大学陸上競技部
長距離ブロック3年
理工学群 皆川和範
筑波大学 理工学群 物理学類3年の皆川和範です。このたび、第99回箱根駅伝において関東学生連合チームの9区を走り1時間10分14秒(区間16位相当)でした。まずは、多くの皆様に、応援いただきましたことに対し、この場をお借りして御礼申し上げます。ありがとうございました。
本レポートを通じて、箱根駅伝を経験して感じたことをお伝えできればと思います。
▼高校の先輩に憧れて歩み始めた箱根駅伝の道
僕が箱根駅伝を目指すきっかけは、高校2年生の時に、箱根駅伝の5区で高校の先輩でもある青木涼真先輩(当時法政大学 大学2年生)の走りを小涌園前で見たことです。5区の走者全員が苦しんで通り過ぎる中、青木先輩は時折ガッツポーズをしながら、颯爽と僕の目の前を駆け抜けていきました。
単純に凄い!と思いましたし、同じ高校から、こんな素晴らしい走りをする選手が生まれていることに誇りを感じる自分がいました。その走りを見て青木先輩と一緒に練習してみたいと思いました。
その経緯から僕は法政大学を目指すことを考えるようになっていきました。しかし、高校の顧問の先生に「皆川は国立の筑波大で、のびのび陸上競技をやるのが適している」と言われたことで、少し悩んだことを思い出します。
筑波大学は、箱根駅伝復活プロジェクトがあり「箱根駅伝を目指せること」に加えて、理科の教師になりたい僕にとって「教員養成に有名な大学であること」が決め手となり、筑波大学を目指すことにしました。そして、筑波大学に入学し、関東学生連合チームとしてではありますが、今回ついに箱根駅伝の舞台に立つことが出来ました。
▼緊張していることに向き合えなかった
今回の箱根駅伝に臨むにあたり、目標を「1時間8分台」に置き、(最初の5kmは下り基調であるため)攻めの走りをして後半は粘るというプランでいました。しかし、イメージ通りの走りにはならず、最初の1kmは2分53秒もかかり、5km通過は14分40秒でした。
後半のことを考えて自重したわけではありませんが、思っていた以上に身体が動きませんでした。精神的な影響が少しあったように感じています。
レースの前半、「調子が良くない」ということを自覚しながら走っていたこともあり、権太坂(7.8km付近)の上りに入ったところで、心拍数がかなり上がっていることに不安を感じてしまう自分がいました。レースを終えて振り返ってみて、調子の良し悪しではなく、箱根駅伝というものに圧倒されていたような気がしています。大会当日になるまで「箱根駅伝を走る」という実感があまり湧いてこなかったことも、緊張していた証拠だと思います。
そんな心境を見越して、というわけではないはずですが、レースの前日、小林竜也先輩から「キツくて垂れそうになっても、ここで諦めたら後悔すると思って気持ちで頑張れ!!」というメッセージが届きました。権太坂で、その言葉を思い出すことで、不安な気持ちを払拭し、苦しいながらも力を入れて走ることができたのですが、それは、その後の給水ポイントで、小林先輩が待っていたからです(無様な姿は見せられない・・と)。
▼給水で尊敬する先輩から伝えられた言葉
そしてやってきた10km給水ポイント。小林先輩は、ドリンクを僕に手渡しながら「マジでありがとう。楽しんで!」と声を掛けてくれました。「ありがとう」と言われたことに正直驚きましたが、その瞬間は、ありがとうの意味を深く考える余裕はなかったので、ただただ嬉しい気持ちになりました。苦しさが和らいだのは、言うまでもなく、10kmからは元気を取り戻すことができました。
でも、その時に、あらためて感じたことがあります。
僕が走っているのは、オープン参加の関東学生連合チームの9区でしかありません。その10km地点で、箱根駅伝出場の夢が叶わなかった先輩が、後輩である僕から依頼された給水の場面で「ありがとう!楽しんで!」という言葉までをも引き出す箱根駅伝は、どれほどまでに大きな存在のだろう、ということです。
小林先輩は、僕が尊敬する憧れの先輩で、先輩のように強くなりたいと思って、頑張ってきました。クール(時にはお茶目)で「俺に付いてこい!」みたいなタイプの先輩から「ありがとう」という意外な言葉が発せられことは、本当に驚きでした。実は、そのギャップがとても面白かったのです。(先輩すみません!)
そこからは、苦しさよりも楽しさが勝り始めました。僕が走っているときに苦しみながらも笑うことができたのは、間違いなく小林先輩の給水(言葉)がきっかけでした。多くの人から「楽しんで走れ!」と言われていたこともあり、苦しいけれど、心から箱根駅伝を楽しむ気持ちになることができ、自然と笑みがこぼれました。
箱根駅伝が終わって、小林先輩の言葉の意味を考えてみました。それは、筑波大学が出場した第96回箱根駅伝のことに起因するのだろうと思っています。
当時1年生だった小林先輩は、6区に内定していたそうですが、レースの1週間ほど前に帯状疱疹を患い、無念の欠場になったと聞いていました。だから、小林先輩の箱根駅伝に対する気持ちが人一倍強い理由を知っているだけに、今回の給水係をお願いしたのです。その感謝の意を伝えてくれたと思うと、こみ上げてくるものがあります。
▼給水の並走を次のステージへの助走
次の給水は、同期の平山に頼んでいました。平山と僕は対照的な存在です。どちらも競技にかける思いが強いため、互いの意見が合わないことがしばしばありました。切磋琢磨する関係のようで、互いが互いを意識し過ぎていたからだと思います。
しかし、第99回箱根駅伝予選会で敗退した後、平山が駅伝主将、僕が駅伝副主将に選ばれ、「筑波大学が箱根駅伝に出るために何をしなければならないのか」を一緒に考えることが増えました。それを機に互いを理解し合うようになり、より深い関係になっていくことができた気がします。
また、1年生の時から、平山の絶え間ない努力と苦労を間近で見てきました。その努力が実り、先月の記録会では、有言実行(走る前に掲げた目標達成)を果たす1万m28分台をマークしました。駅伝主将の決意が結果で示され、駅伝副主将の僕も大いに刺激を受けました。
その平山と箱根路を給水で並走することが、次回の箱根駅伝に向けて共にチームを率いることを表す象徴になると考えました。たった数十メートルのことかもしれませんが、第100回大会へと飛び立つ助走路になるはずです。
実際に、平山に声掛けしてもらうことで、大きな力を与えられ、その後は「来年は絶対にチームで走る!」という想いを一歩一歩に込めて、箱根路を走りました。苦しみながらも周りの景色を目に焼き付け、チームを代表して箱根駅伝を体験していること、それを楽しむように意識しました。
▼次の箱根駅伝はチームで戦いたい
そんな心理状態になったこともあり、順調に足を進められていましたが、20km地点を過ぎてからの残りの3kmは、心が折れそうな苦しみに襲われました。それでも粘ることが出来た理由は、20km以降の声援が非常に多かったからです。目標タイムには遠く及ばないものでしたが、この沿道の歓声に包まれてチームで戦ったら、本当に興奮するだろうなと思えました。
「まさか僕が箱根駅伝を走ることになる」なんて、昔は想像することができなかったので、関東学生連合チームであっても、目標タイムに届かなかったとしても、正直なところ、レース後数日間は、悔しさよりも嬉しさが勝っていました。
箱根駅伝を終えて、大勢の人に「箱根駅伝を走れてよかったね」と言ってもらえたことも、そんな気持ちが助長された要因かもしれません。
一方で、多くの方から「筑波大学の襷をかけて走る皆川を見たい」とも言われました。その言葉を聞いたときに、僕は、目標を達成できていないことに気づかされました。
出場できて良かったと思っているのは僕一人で、筑波大学のユニフォームを身に着けているものの、出場しているのは「筑波大学」ではありません。今回の箱根駅伝を走り終わった時、僕の心の中には、充実感と隣り合わせで引っ掛かるものがありました。それが何であるかがハッキリとわかりました。
▼襷リレーがなかったことの意味
今回の箱根駅伝で、繰り上げスタートとなった僕は、襷を受け取ることも繋ぐこともできませんでした。「筑波大学で出場して、次こそ襷リレーをしなさい」ということだと思います。神様が与えてくれた「タスキリレー無しの箱根駅伝」だったことを、僕は絶対に忘れないようにしようと思います。
第100回大会の予選会は、全国に門戸が開かれ、さらなる厳しい戦いになると思いますが、「チームが戦えない(箱根駅伝に出場できない)場合の責任は、僕自身になる」という覚悟を持って、精一杯の取り組みを続けていきます。
僕が青木先輩に影響を受けたように、「人」は誰かに影響を与え、「走り」は多くの人に夢を与えることができます。今回の箱根駅伝を経験し、そのことを改めて感じました。僕自身が、少しでも人に影響を与えることが出来る人間になることが、僕の将来に大きな価値を与えると思います。
それは「筑波大学として箱根駅伝に出場してこそ」です。筑波大学の未来、僕自身の将来のために、より一層精進していきます。
最後になりますが、ここまで支えてくれた支援者の皆さま、学内関係者、チームメイト、応援をしていただいた全ての方々に感謝申し上げます。ずっと支えてくれた家族に箱根駅伝を走る姿を見せることができたことは嬉しいことですが、来年は、筑波大学のタスキを掛けて走る勇姿を見せられるよう頑張りたいと思います。
これからもご支援、ご声援のほどよろしくお願い致します。
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第99回箱根駅伝 関東学生連合チームの成績
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*1区 新田楓 (4)育英大学
(参)1時間2分59秒
*2区 工藤 大和 (2)麗澤大学
(参)1時間10分7秒
*3区 内野李 (3)関東学院大学
(参)1時間6分17秒
*4区 山田拓人 (4)拓殖大学
(参)1時間4分51秒
*5区 橋本章央 (3)芝浦工業大学
(参)1峠間12分38秒
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□往路タイム(参)5時間36分52秒
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*6区 波多江隆人 (2)日本薬科大学
(参)1時間 2分39秒
*7区 榎本晃大 (2)明治学院大学
(参)1時間5分39秒
*8区 佐藤碧 (2)平成国際大学
(参) 1時間8分18秒
*9区 皆川和範 (3)筑波大学
(参)1時間10分14秒
*10区貝川格亮 (4)慶應義塾大学
(参)1時間13分31秒
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□復路タイム(参)5時間40分21秒
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※総合タイム(参)11時間17分13秒
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