スポーツを応援するクラウドファンディングには夢の続きがある
筑波大学 陸上競技部
男子駅伝監督 弘山勉
欧州グランプリを目すホクレン・ディスタンス・チャレンジ
ホクレン・ディスタンス・チャレンジ大会は、北海道で開催される長距離レースのサマーシリーズとして、夏の風物詩となっている。大会名にも含まれる「チャレンジ=記録への挑戦」のために、日本のアスリートたちが集う場として、その存在価値を高めてきたからである。
私は、駅伝監督就任2年目の2016年の夏、筑波大生をホクレン・ディスタンス・チャレンジに連れて行った。学生たちが、まだまだ弱い頃のことである。
「弱い筑波大学が箱根駅伝に出場するために、上の舞台を経験させたい」という思惑。つまりは、身の丈より上の挑戦になるが、そんな筑波大学を大会は暖かく迎えてくれ、多くの観衆が、集団の後方でレースを進める学生たちに温かい声援を送ってくれた。
そんなホスピタリティに溢れる大会の雰囲気に加え、「北の大地・涼しい気候・夕暮れからグッと下がる気温」という条件が揃うホクレン・ディスタンス・チャレンジは、北欧で開催されるグランプリ大会『ビスレットゲーム(ノルウェー)』『「DNガラン(スウェーデン)』を彷彿させる。
妻(弘山晴美)が 5000m 14分台 を狙うために選んだのも「DNガラン」だった。涼しい気候と観衆の大声援に後押しされて、レースの終盤に外国人選手を次々と抜き去り日本新記録をマークすることができた。
15分3秒と僅かに14分台には届かなかったが、日本人初の14分台を目指した挑戦は、極上の体験と私たち夫婦に自信をもたらし、世界陸上1万m4位に繋がったと確信している。
挑戦に必要な舞台設定
挑戦は楽しく、挑戦への道のりは、充実したものになる。でも、どんなに挑戦が楽しかろうが、道のりが充実していようが、挑戦する場の舞台設定が整わなければ、挑戦はノーチャンスとなるリスクが付きまとう。
長距離走の場合、天候・気温・風・会場の雰囲気・ペースメイク=全てが揃った時に、選手が発揮する能力が好記録に置き換わる。重要なのは「舞台設定」として間違いないだろう。
ホクレン・ディスタンス・チャレンジが認められるのは、試行錯誤を重ねて、舞台設定の質を高めてきたからに他ならない。
そのホクレンディスタンスチャレンジが、今年も盛大に開催される。高揚感が増す中、大会の情報を取得している時に “あること” に目が留まった。
「日本の陸上を一歩前へ。目標記録達成のために電子ペーサーの導入を!」
と題したクラウドファンディングの実施(目標金額300万円)のお知らせである。
そもそも、ホクレン・ディスタンス・チャレンジは、実業団の監督やコーチが海外のグランプリ大会に遠征した時に「日本でもこんな大会(シリーズ)をやりたいよね!」と構想したことが発端と聞く。
その構想を実現すべく、開催地と協賛企業・団体、日本陸上競技連盟、実業団チームなどが協力し合い、皆の手で創り上げてきた大会である。大会もチャレンジしているのが、今回のクラウドファンディングという取り組みに表れており、「手作りを地で行く大会」として、そのコンセプトに相応しい “らしさ” が出ていると思える。
欧州では、中距離レースが人気だ(今も?)。観衆と一体化したレースは最高に盛り上がる。その空間にいるだけで幸せになることができるのだ。「大会に集う全ての人を幸せにすること」それこそが、ホクレン・ディスタンス・チャレンジのスタッフが目指す姿なのだろう。
「盛り上がり」-そこにあるのは 挑戦への応援-
ペースメーカーに導かれた選手たちが華麗に走り、颯爽とゴールを駆け抜ける。そうした選手のパフォーマンスを観衆はスタンディングオベーションで讃える。その一体感を味わうために、人々はスタジアムに足を運び、声援というエネルギーを選手に与えるのだ。
そう、白熱したレース(高い競技パフォーマンス)は、紛れもなく、ペースメーカーの存在とスタジアムの雰囲気によってもたらされるのだ。観客の期待、選手のモチベーション、ペースメーカーの使命感、大会スタッフの奉仕、これらが呼応し合い、共鳴することでスタジアムはヒートアップしていく。
そんな大事な一端を担うペースメイクのために、今年、ホクレン・ディスタンス・チャレンは、電子ペーサーの導入を目論む。タイムアタックであるホクレン・ディスタンス・チャレンジのレースにおいて、目標はタイムでしかない。
ということは、目標達成のためにペースをコントロールすることが重要だ。その役割を担うのが電子ペーサーなのである。
2017年、人類初のマラソン2時間切りを目指した「ブレイキング2」において、ランナーの前を走る車両から目標ペースが光になって路面に映し出されていた。ペースの見える化である。
その挑戦の終盤、ブレイキング2の光から遅れるキプチョゲをハラハラドキドキ応援したことを思い出す。
そのトラックレース版とも言える電子ペーサー。光に付いていくことができれば、目標設定されたタイムをクリアすることになる優れたシステムである。
点灯しながら進むライトとの競走とも言える「一目瞭然の観戦」は、レースを楽しむための強力なツールとなるはずだ。ランナーにとっても、記録誕生を願う観客にとっても、コーチにとっても、大会スタッフにとっても、ペースの見える化の恩恵は絶大だろう。
大会は人が集う「Meeting」
今回、この取り組みをクラウドファンディングで実施することを知り、私は、良い企画だと思った。なぜなら、このレースに参加する人がそれだけ増えるからである。
支援の数だけ、熱量は増す。海外では、大会をよく「meet(meeting)」と呼ぶ。人々(選手と観衆)が集い、共に熱くなるのが大会であるということが由来だろう。ということは、観衆も立派な主役である。
そういう意味では、電子ペーサーのクラウドファンディングは、大会を盛り上げる人々の「meeting」そのものになる。ペースメイクをしているのは、まさしく支援者になるからだ。「支援者らが、新記録を誕生させることになる」と言っても過言ではあるまい。
「新記録をマークした選手が、世界大会に出場することになったら・・・」そんな夢の続きも期待できる。そうなった場合、今大会だけに留まらない支援ということになる。
クラウドファンディングも「Meeting」
私は「筑波大学箱根駅伝復活プロジェクト」の活動において、毎年クラウドファンディングを実施してきた。現在は、クラウドファンディングから継続寄附型サポーター制度になっているが、そこで集めているのは資金だけではない。応援(愛)であり、多くの「meet」 なのだ。
箱根駅伝出場を目指す国立大学の本気の挑戦!サポーター募集中!
筑波大学が2019年の箱根駅伝予選会を突破する前から突破後まで、1000人近い方々から支援いただいた。その方々と一緒に箱根駅伝を戦ってきたつもりだ。支援がなかったら、箱根駅伝には出場していないし、それどころか、予選会において、下位で低迷していた大学のままだったろう。
クラウドファンディング支援者は、チーム強化を担う「れっきとしたチーム筑波大学の一員」なのである。
支援者側に立つと、箱根駅伝には直接的には縁もない立場から、懇意に応援する大学ができることになる。沿道やテレビ中継を通して、熱い応援になるのは間違いなく、普通の応援に留まらない「深く入り込んだ」箱根駅伝参加になるはずである。
-クラウドファンディングから繋がる夢の続き-
今年、長野マラソンで優勝した筑波大卒の「西 研人(現:大阪ガス所属)」が、MGC(マラソン グランド チャンピオンシップ)出場権を獲得し、秋にはオリンピック代表に挑むことになった。この背景には、紛れもなく、筑波大学箱根駅伝復活プロジェクトのクラウドファンディングの存在がある。
クラウドファンディングによって、筑波大学は、箱根駅伝に出場するための環境整備と強化を進め、西 研人は、学生時代に支援を受けることで成長し、実業団チームに進むことで、オリンピック代表という夢への挑戦が可能となったからだ。
オリンピック挑戦の権利獲得について、本人の能力や努力を無視して語るつもりはないが、クラウドファンディングによる支援があったからこその能力開花だとすれば、クラウドファンディング支援者の方々は「私が西研人を育てた」と言っていただいて、何ら問題ないことになる。
そんな繋がりこそが、広い意味では選手育成のチーム戦であり、選手と応援・支援のmeet がもたらした夢の続きとなるのだ。
今年度、箱根駅伝は、第100回という記念すべき節目を迎える。学生たちは、出場を目指して頑張っています。奇しくも第100回箱根駅伝予選会が10月14日、パリ五輪選考会のMGCが10月15日に開催されるのは、奇遇というより吉兆に思えてくる(笑)。
この両日、筑波大生を育ててくださったクラウドファンディング支援者の皆様は、ご自身が選手育成に係わった現役学生と西 研人に、熱い声援を送っていただきたい。
その前に、数名の学生が筑波大学記録更新を目指して、ホクレン・ディスタンス・チャレンジに参戦予定です。ホクレンディスタンスチャレンジ電子ペーサー導入のクラウドファンディングへの応援もよろしくお願いいたします。
日本の陸上を一歩前へ。目標記録達成のために電子ペーサーの導入を!
多くの方々にとって、夢の続きが訪れますように!! 2023 ホクレン・ディスタンス・チャレンジの成功を祈念しております!