第95回箱根駅伝は、2019年1月2・3日に開催され、22大学+関東学生連合(オープン参加)の計23チームが出場。東京(大手町)~箱根(芦ノ湖)間を往復する217.1km(10区間)の襷リレーは、大学の威信をかけた気力と体力のぶつかり合い。下馬評通り3強の見応えある駅伝競走となった。優勝は東海大、2位が青山学院大、3位が東洋大だった。
箱根駅伝予選会で敗れた筑波大学からは相馬崇史(体育・2年)が関東学生連合チームに選出され、5区(山登り)を任された。この区間は「天下の剣」箱根の山(標高差800m余)を駆け上がり、芦ノ湖のゴールへ一気に駆け下りる超難コースで、順位変動が大きい往路の最終区。関東学生連合チームはオープン参加ではあるが、競走に参加していることに違いはなく、アンカーとして責任は重大である。
関東学生連合チームは1区から21位と出遅れ、その後も区間順位(=オープン参加のため参考記録)は、21位、20位、21位。先頭からジワジワと離され、相馬が待つ小田原中継所では大差に。繰り上げスタートのリミットタイム(15分)に1分16秒及ばず、屈辱の繰り上げスタートとなった。繰り上げをギリギリ逃れた山梨学院大が襷を中継した直後、相馬は第4走者から襷を受け取ることなく走り出した。順位は最下位だった。
12年振りに箱根路を踊る筑波大『桐の葉』のユニフォームを着た相馬は、上位チームの熱い戦いには程遠い最下位での襷リレーで始まった。ここまで悪い順位は想定外だったが、往路のアンカーという大役を担う者としては、1つでも順位を上げなければならない。
前を走る山梨学院大学を追いたいのだが、相馬の身体は思うように動かなかった。本来はロードの上りをスイスイと駆け上がれる選手だが、得意の上り坂で精彩を欠く走りに。苦しい箱根の山登りとなった。
レース前に立てたプランは「5キロまで抑えて、宮ノ下から始まる厳しい上り坂でペースを維持する」というもの。その作戦を物語るように各チェックポイントの通過順位は、以下のように推移。
大平台( 7.0km):22位相当
小湧園(11.7km):20位相当
芦之湯(15.8km):15位相当
元箱根(18.7km):15位相当
芦ノ湖(20.8km):13位相当
距離が進むに従い、順位は右肩上がりに上昇。最も苦しい元箱根からの2kmで順位を二つ上げる13位相当でフィニッシュする根性を見せた。
予選会後から箱根駅伝本戦まで相馬は苦しい調整を強いられた。予選会では激しい腹痛に見舞われながらも64分09秒で走破し、走力の強化を示した。その自信を胸に1万mの記録会で28分台を狙う予定が、目標に程遠い記録に終わった。貧血が疑われた。
原因を調べた結果、やはり貧血に陥っていたのだ。同時に足の違和感(痛みの一歩手前)も発症したことから、低酸素バイクで調整する日々が続いた。その疲労から風邪も引き、一時の体調はどん底に。ポイント練習の再開は12月9日までずれ込んだ。そこから急ピッチの仕上げとなった。
この日は、そんな順調とは言い難い調整過程を考慮してベストと思える戦略を採った。相馬はその戦略に徹して精一杯の走りをし、力は出し切ってくれた。相馬が有するポテンシャルからは不本意な戦略ではあったが、チームへ貢献する走りはできたと思いたい。
「絶好調の練習過程を踏みながら怪我(5日前)による欠場で補欠」の昨年、「苦しい調整過程を乗り越えて12年振りに筑波大生として箱根路を走り切った」今年。対照的で皮肉な現実ではあるが、どちらもが相馬を成長させる経験となったはずだ。アスリートとして さらに一段のレベルアップを果たすに違いない。それを共有するチームメイトにとっても、悲願である『チームでの箱根駅伝出場』を叶える糧にしたい。
今回、多くの方々に沿道で相馬に声援を送っていただきました。陸上競技部OBOG会、茗渓会、卒業生(東京教育大、筑波大)、大学教職員、現役大学生、クラウドファンディング支援者の皆様です。
形成されつつある“チーム筑波(筑波大の箱根出場を応援する支援者)”がより大きなものになり、強固な応援体制が確立されなければ、筑波大学の箱根駅伝出場が実現することはないと思われる。それほど箱根駅伝予選会突破の牙城は高くなっている。それを今大会の記録が証明している。
総合優勝は東海大学で、10時間52分09秒という大会記録を5分半も更新する大記録。往路も復路も大会新記録で、区間新記録も3区、4区、5区、6区、8区で誕生した。良好な気象コンディションだったことが記録ラッシュを後押ししたとはいえ、大学長距離界のレベルアップは顕著だ。少しデータで示してみると、
2019 箱根駅伝
優勝:東海大(10時間52分09秒)
10位:中央学院大(+17分14秒)
11位:中央大(∔18分30秒)
15位:東京国際大(+22分33秒)
20位:城西大(∔27分48秒)
21位相当:関東学生連合チーム(∔29分42秒)
2018 箱根駅伝
優勝:青山学院大(10時間57分39秒)
10位:中央学院大(+16分46秒)
11位:順天堂大(∔17分00秒)
15位:中央大(+21分47秒)
20位:上武大(∔35分03秒)
上記のタイム差に示されるように、今大会は優勝タイムが5分30秒も更新しながら、20位のタイム差も昨年の35分から27分に縮まっている。11位の記録で4分00秒、15位で4分44秒、20位では12分53秒も短縮している計算。著しいレベルアップである。
相馬が関東学生連合チームで(筑波大生として)12年振りに出場したことはチームの進歩を示すわけだが、自身たちの成長を一気に高めないといけない状況にあることは明らかとなった。
東京高等師範学校から始まり、東京教育大学を経て筑波大学まで箱根駅伝に出場すること約60回。そんな伝統校が箱根駅伝から遠ざかって25年。久しぶり(12年振り)に筑波大学のユニフォーム(桐の葉)が箱根路を走った。『筑波大学箱根駅伝復活プロジェクト』にとって記念すべき“この日の一歩”を、“来年のチーム出場に向けた歩み(前進)”にしたい。
最後に、相馬と付き添い、給水係、ゴール係のコメントを掲載します。
<関東学生連合チームで5区を走った相馬崇史のコメント>
「初めての箱根駅伝は沿道の声援の大きさに衝撃を受けました。自分の息や足音が聞こえないほどでしたが、その声援が力になり、何度も苦しい場面を乗り越えることができました。今回の結果についてはとても満足はできるものではありませんが、筑波大学として箱根駅伝に着実に一歩前進したと感じています。この経験をしっかりとチームで共有して大学として箱根駅伝本戦に出場できるようチーム、僕自身共にもっと力をつけていきたいと思います。沿道やテレビで応援してくださった皆様、本当にありがとうございました。今後も筑波大学の応援とご支援、ご指導をよろしくお願いします。」
<相馬の付き添いをした児玉のコメント>
「今回、相馬の付き添いをさせていただきました。自分はとにかく相馬が安心して走れることだけを考えて行動しました。当日、慣れない雰囲気ということもあり、慌ててしまうこともあったのですが、最善を尽くし相馬を送り出せたと思います。付き添いという役目を担ったことで、箱根駅伝という大きな舞台を間近で感じることができました。同級生が走り、それを直前まで支えられることに喜びを感じる反面、チームで走れない悔しさを感じました。やはり、筑波大学として出場したいと改めて強く思いました。来年の箱根駅伝では、チームとして出場できるように頑張っていきたいと思います。今回の相馬に対しての応援、ご支援等ありがとうございました。これからもよろしくお願い致します。」
<5区(大平台)で相馬へ給水を渡した上迫のコメント>
「憧れの大平台を、給水という形で走らせてくれた相馬に本当に感謝しています。連合チームとして、相馬はもう箱根を走れません。僕が出来る相馬への一番の恩返しは、チームとして予選会を勝ち抜き、もう一度彼に箱根を走ってもらうことだと思います。来年は水ではなく襷を渡せるよう、この一年本気で練習を重ねていく覚悟が出来ました。」
<往路のゴールで相馬を出迎えた尾原のコメント>
「相馬は、レース後しばらくは動けないほど力を出し切っていました。そんな相馬を見るのは初めてのことです。やはり、箱根駅伝は特別な大会だと感じました。相馬は落ち着いた後、“やりきった!”という充実した表情を浮かべ、レースの模様を熱く語りだしました。その話を聞いて、さらには、相馬の輝く目を見て、より一層“箱根駅伝を走りたい”という気持ちが僕の中でも強くなりました。これからの1年、箱根を経験した相馬と切磋琢磨し、チーム出場を目指して頑張っていきたいと思います。」