箱根駅伝予選会 結果報告と考察(文:男子駅伝監督・弘山 勉)
第95回 箱根駅伝 予選会(2018年10月13日 開催)に、国立大として唯一の予選突破に挑んだ筑波大学。今年も、その夢は無惨にも散ることになりました。総合成績は、10時間55分23秒の17位。記念大会ということで1枠増えた11位までの予選通過に対して、順位で6校、タイムで8分32秒及ばない結果に終わりました。
昨年から順位を2つ上げ、予選通過ラインとの差が昨年の13分09秒から8分32秒に縮まったとはいえ、もちろん喜ぶ者は、チームに誰一人としていません。目標からは程遠い牛歩のような進み具合に、私たちは不甲斐なさしかありません。「着実に(箱根に)近づいてる」「国立大なのに良く頑張っている」というお言葉もいただきますが、私たちは、それを慰めと期待の表れとして受け、自分たちを奮い立たせていこうと思います。
「来年こそ!」「今年こそは!」と言い続け、結局は、今大会が終わっても「来年こそは!」と言わなければならない状況に、私自身が憤りを感じています。言い訳する気はありませんが、たくさんの方々にご支援とご協力をいただいている身として、私には説明責任があると思いますので、私なりに結果分析をし、今後の対策も考えながら報告させていただきます。
<目標とレース結果(ハーフマラソン)>
順位 | 氏名(学群・学年) | 記録 |
---|---|---|
67 | 相馬崇史(体育・2) | 64’06” |
89 | 金丸逸樹(体育・3) | 64’28” |
106 | 池田 親(体育・3) | 64’39” |
122 | 西 研人(体育・2) | 64’54” |
159 | 村上 諄(体育・4) | 65’23” |
179 | 川瀬宙夢(医学・4) | 65’37” |
213 | 児玉朋大(体育・2) | 66’11” |
214 | 猿橋拓己(理工・2) | 66’12” |
243 | 渡辺珠生(体育・2) | 66’55” |
246 | 相澤拓実(理工・3) | 66’58” |
今回の予選会に臨むにあたり、総合10時間46分20秒(一人平均64分38秒)をチーム目標に掲げ、各学生の目標タイムを設定しました。私もそうですが、学生たちも“十分にいけるタイム”として、スンナリと受け入れることができる数字でした。
このタイムで走破できていれば、予選を通過したことになります。計算は間違っていなかったわけですが、そこから遅れること8分57秒。ここまで差が出るのは何故か?このことを分析できない限り、大きな前進は見込めません。
個々で見ると、「相馬の腹痛」「池田の予定以上の速い入り」「金丸のタイム設定(指示)ミス」など誤算はありますが、上位4人は、概ねしっかり走ったと思います(4人とも目標タイムに達していませんが)。しかし、チーム5番目以下に、それぞれの目標タイムから1分以上の遅れが生じました。これでは、チームの目標タイムに届くはずがありません。
<スタミナ不足>
下記の表は、昨年との比較です。今年はハーフマラソンに距離が伸びたので、20kmに換算して示しています。
昨年と比較して、20kmで一人当たり18秒の伸びに留まっては、今回の結果も致し方ありません。上位10人を半分に分けて比較してみます。上位5人の平均タイム(前半10km-後半10km=20km)「30分21秒-30分55秒=61分16秒」に対して、下位5人の平均タイムは「30分50秒―32分01秒=62分51秒」でした。
上位5人は、昨年より20秒速く10kmを通過しながら、後半の10kmで落ち込みを8秒減らしていますが、下位5人は、昨年より8秒速く10kmを通過して、後半が昨年よりも2秒多く要しています。上位5人は昨年よりパフォーマンスを上げていますが、下位5人は昨年並みという評価が妥当かもしれません。
チーム上位の走力をもっと高める必要はありますが、チーム下位の引き上げや底上げが依然として課題であることがわかります。
<昨年との比較データ(20㎞)>
比較対象 | 前半10km | 後半10km | 20km |
---|---|---|---|
2017年10人 | 30’50” | 31’31” | 62’22” |
2018年10人 | 30’35” | 31’28” | 62’04” |
2017年上位5人 | 30’41” | 31’03” | 61’48” |
2018年上位5人 | 30’21” | 30’55” | 61’18” |
2017年下位5人 | 30’58” | 31’59” | 62’56” |
2018年下位5人 | 30’50” | 32’01” | 62’52” |
<個人データ>
(前後半の10㎞と20㎞換算タイム)
相馬 30’12” 30’33” 60’45”
金丸 30’30” 30’37” 61’07”
池田 30’03” 31’10” 61’13”
西 30’31″ 30’57” 61’28”
村上 30’31″ 31’24” 61’55”
川瀬 30’40” 31’37” 62’17”
児玉 30’40” 31’57” 62’37”
猿橋 30’40” 32’00” 62’40”
渡辺 31’06” 32’16” 63’22”
相澤 31’06” 32’18” 63’24”
やはり、後半のペースダウンが顕著です。昨年に比べて、後半の10kmのタイムは3秒速くなっていますが、前後半の落差でいうと、昨年の41秒に対して、57秒に落差が大きくなっています。後半のスタミナとロード対策が引き続きの課題です。この課題を認識しながら、改善できていないところが情けなく、私自身に憤りを感じるわけです。
<走力が足りなかった?>
走力不足は、確かにあるとは思います。例えば、猿橋は10kmの通過が1万mのベスト記録より4秒速いですし、池田と渡辺、相澤は、それぞれ14秒、10秒、6秒遅いだけの通過。純粋に前半の10kmに対してトラックの1万mの記録が足りていないと言えます。
しかし、それが敗因の全てとは考えていません。手応えを感じる練習は、本当に増えています。前述で比較している1万mの記録も調整なしで出場した記録会でのもの。実際の記録は、もっと上だと思います。
練習で見せる強さが、レースでは全く発揮できない学生が多いことが、ここ数年の課題でしたが、今年も本番での発揮力の低さが露呈したような気がします。その理由は何だろうか。ずっと自問自答を続けているテーマです。
実は、全員がハーフマラソンの自己ベスト記録で走っています。相澤(3)と杉山(1)は、初めてのハーフマラソン。つまりは、ハーフマラソン(20km以上のレース)の経験不足が影響したと考えるのは間違いではないと思います。練習とレースは、まったく違う生き物です。
生きたレースを体感せずに、仮想の経験をいくら積んでも、それは高レベルなレースでは通用しない気がします。実際、経験が僅かながら、丸亀ハーフマラソンや関東インカレ・ハーフマラソンに出場した学生は、昨年より記録を伸ばしています。
以上がレースの分析ですが、競技以外で考えるところが私にはあります。
<中途半端と文武両道の狭間で>
一つ言えるとしたら、文武両道という中途半端さが挙げられます。本学の学生は、とても忙しいです。そこに自己満足が生まれている可能性があるのかもしれません。私は文武両道を推奨しています。当たり前です。学生スポーツなのですから。学生もそれを目指して本学に入学しています。
勝負に勝つには、その大会レベルで勝利のスタンダード(勝てる水準)があります。箱根駅伝に出場するための水準に対して、文武両道学生が自覚する基準が違う可能性があります。
表現は難しいですが、精一杯やっているつもりでも、箱根駅伝に出場する基準に達していない可能性があるということです。「井の中の蛙大海を知らず」ということでしょうか。
例えば、授業や課題、ポイント練習の疲れから、朝練習や調整日の走行距離が減っているのではないか、という懸念です。一方で、ポイント練習以外の走行距離を増やすとポイント練習を外してしまう恐れがあります。
「ポイント練習を外してもいいから走行距離を増やしてスタミナ強化を図るのか」「あくまで、ポイント練習主体で時間をかけて強化していくのか」この狭間で本学の学生は生きています。これはほんの一例ですが、悩ましいところではあります。
そこに解決の糸口があるような気がします。QOL(クオリティー・オブ・ライフ)という言葉がありますが、直訳すると「生活の質」になるでしょう。本学の学生は、QOLが高めです。それは、ライフを学生生活と置き換えて考えていただければ、異論はないと思います。
ただし、という注釈を入れたくなります。文武両道に加えて、マネージャー不在の陸上競技部で担う役割、食事当番など多忙を極めていると思います。だから、平均的に質は高いという表現を用いたくなります。いや、総合的というほうが近いかもしれません。“武”に注ぐエネルギー(時間)が必然的に小さくなっている可能性があるということです。
他のエネルギーを“武”の部分にあてがうのではなく、“武”のエネルギー(モチベーション)を高め、質と量を増やせるかに箱根駅伝予選会突破はかかっていると思います。これは学生自身の挑戦になるでしょう。生半可な気持ちでは、実現できないことだと思うからです。それを象徴する事象として、予選会前日のことを記します。
<ハンディをプラスへ>
予選会の前日、選手の約半数が5限まで授業がありました。授業終了後に立川に移動して、夕食を食べ終わったのが、20時半です。前日ミーティングは、その後から開始になってしまいました。翌日のスタート時刻を考えると、もうベッドに横にならなくていけない時間帯です。
「これをハンディ」と捉えるか、「学生の人材育成」と捉えるかは人それぞれかもしれません。競技スポーツの世界では中途半端ですが、学生スポーツでは、正当な状況になるからです。私は、この中途半端さを言い訳にするつもりは毛頭ありません。正当な文武両道で勝負するのが筑波大学なのですから当然です。
課題は、中途半端(平均点)からの脱却であり、文武両道なりの策(時間や余裕がない学生を長期的なスパンでどう強化するか)が、今後1年間の行方を左右することになると思います。
ハンディ(苦労)が人を育てます。創意工夫や努力が必要なのですから、それは間違いないことです。ただ、余裕がなく、頑張らなければならないことが多過ぎて、競技の水準を下げないように、個の意志とチームプレーで維持していかなければならないと思っています。
以上、裏では、こんな苦労があるという話です。参考までに記しましたが、こんな境遇で箱根を目指す学生を応援していただければ幸いです。(本学の学生は、苦労と思っていないでしょうが)
<今年のチームで出場したかった>
文武両道の象徴の一つとして、この1年間、長距離チームを引っ張ってきたのは、医学群医学類に所属する川瀬宙夢です。医学部で学びながら箱根駅伝を目指したくて、一浪してまで本学に入学した学生です。「医学部でも箱根を目指せることを証明してみせる」との気概を持った学生です。
現4年生が3人しかいないので、川瀬自らが駅伝主将を買って出てくれました(学業に忙しい身なのに・・)。医学群なので、川瀬は来年もまだ大学生。実は来年も出るチャンスはあります。ですが、朝早くから夜遅くまで実習が続く状況では、競技に費やす時間はなくなるということです。
「彼のために」という想いだけではなく、多忙な医学群で学びながら苦労してチームを引っ張ってくれた駅伝主将、その苦労を分かち合い共に頑張ってきた学生たちを箱根路に導いてあげたかったです。それが実現しなかったことが本当に残念でなりません。
<再スタート>
さあ、1からの出直しとなります。こうして、結果を考察してみると、課題に対しての強化方針が見えてくるものです。それらを学生と共有し、短期・中期・長期の目標をしっかりと定め、前に進んでいきたいと思います。上位4人が2・3年生であり、選手層が厚くなってきつつある来年は、予選会を突破するチャンスは十分にあると思います。
その前に、今度こそ成し遂げたい重要なことがあります。今大会で相馬が67位となり、関東学生連合チームで走る可能性があります。前回は5区の出走が決まっていたにもかかわらず、足の怪我に泣きました。今年こそ万全の状態で走らせたい。2019年正月の箱根駅伝で相馬がチームに勢いを与え、2020年の箱根駅伝に向けて、本当のスタートを切りたいと思います。
<御 礼>
最後になりましたが、日ごろよりご支援いただいている方々には心より御礼申し上げます。クラウドファンディングで寄附いただいた皆様、陸上競技部OBOG会、茗渓会、合宿助成金を支給していただいた自治体、個人的に寄附してくれた知り合いの方々、SNSの投稿にいいね!シェア!リツイート!してくださる方々、本当に多くの皆様に支えられて、私たちは順位と記録を伸ばすことができました。
予選を通過できなかったのは、私たちの至らぬ点がまだ多くある証拠です。そこを埋める努力を続け、来年は支援いただいた方々と共に喜び合えるよう精一杯頑張ってまいります。引き続き、温かいご声援とご支援、ご協力をよろしくお願い申し上げます。
筑波大学・陸上競技部コーチ
男子駅伝監督 弘山 勉