単なる競技者育成にとどまらない 「ひとづくり」プロジェクト

駅伝監督 木路 修平

筑波大学が取り組む「箱根駅伝プロジェクト」は、単なる箱根駅伝出場に向けた競技力向上を目指すだけの取り組みではありません。箱根駅伝出場という大きな夢と希望を抱いて本学に入学してくれた学生たちにとって、近年の大学長距離界の競技レベルの上昇は凄まじく、入学時の箱根駅伝出場という夢は、そんじょそこらの取り組みでは成し遂げられない厳しいものとなっています。しかし、簡単に手に入れられないものだからこそ、夢の達成に向けて「本気」で取り組み、「本気」で悩み、「本気」で苦しんだ先の喜びは何物にも代えがたいものであると思います。そして、この「本気」の積み重ねで得られた経験は、競技活動だけにとどまらず社会に出た時にも充分役に立つ財産になると信じています。このことがまさに、本気の運動部活動が持っている「人間力の養成」という教育的価値の一つではないでしょうか。

その取り組みの中で私の仕事は、箱根駅伝出場という大きな夢と希望を抱いて本学に入学してくれた学生の可能性を信じ明るい未来が訪れる手助けをすることであり、大学4年間を経て競技を続ける学生だけでなく、競技を離れ新たなステージに臨む学生全員が本プロジェクトを通した養った人間力でどのような場面においても財産を活かし自信をもって挑戦し続けてくれるよう送り出すことだと考えています。

これらのことからも本プロジェクトは、単なる競技者育成にとどまらない学生の「本気」の積み重ねで得た財産を通した人間的成長を見守るり、運動部活動の持つ「ひとづくり」という教育的価値を具現化する「ひとづくり」プロジェクトだということがわかっていただけると思います。


韋駄天と呼ばれた男

今から100年以上前にオリンピックの予選において世界最高記録で優勝し、日本人として初めてオリンピックにマラソン競技で参加した「「韋駄天」と呼ばれる筑波大学の前身である東京高等師範学校の学生がいました。その人物は金栗四三翁です。 金栗翁はその後もオリンピックに3度出場し、世界的なマラソン選手となられました。

現役引退後はトップランナー育成やランニングやマラソンの普及のために、80歳を過ぎても全国各地を元気に走り回られ、92歳で天寿を全うされました。現在、マラソンに人生の全てを捧げ、今のランニングブームが築かれる礎を作った創始者は「日本マラソンの父」と謳われ、最速ランナーの称号(韋駄天)を与えられています。

金栗翁は、自ら耐熱練習や富士山での高地練習を考案、実行するなど競技力向上の探求を突き詰めた世界的なマラソン選手であっただけでなく、走ることを普及させるために東海道五十三次駅伝や箱根駅伝を誕生に尽力されました。また、下関~東京間、樺太~東京間を20日間で走破するといった大イベントも開催し、テレビもない戦前に、新聞記事になることを積極果敢に行い、走ることの素晴らしさを国民に伝えていくことにも取り組まれました。

日本のマラソンの強化に繋げるために学生アスリート育成を企図した箱根駅伝は、金栗翁の構想に沿うかたちで今も発展し続けています。


Mission

金栗四三翁の意思の具現化
〜 日本人の世界挑戦・若者の育成・健康スポーツ社会の創造 〜

金栗四三翁は、競技力向上の探求を突き詰められ、日本人初のマラソン選手としてオリンピック・ストックホルム大会に出場されたトップアスリートであっただけでなく、その生涯をトップアスリート強化に向けた福岡国際マラソンや箱根駅伝の創設などだけでなく、誰もが気軽に仲間と走れる健康マラソンまで幅広く注がれました。その根底にはランニングをツールとした「日本人の世界挑戦、若者の育成、健康スポーツ社会の創造」という金栗翁の強い想いがあります。

本プロジェクトは、箱根駅伝出場を目指した単なる長距離ランナーの競技力向上にとどまらず、ランニングを通して社会との繋がりを強めていくことによって、競技活動で得た経験・知識の社会的汎用化を進め、卒業後も社会の様々な分野で活躍できる学生アスリートの育成を目指すものです。

この取り組みはランニングをツールとした「日本人の世界挑戦、若者の育成、健康スポーツ社会の創造」という、まさに金栗四三翁が生涯をかけて目指したものの具現化であり、金栗翁のDNAを受け継ぐ、様々な専門分野(学群・学類)の箱根駅伝出場を夢見る全ての学生に扉を開き、かつ高度な教育、研究、競技活動レベルを担保しうる筑波大学だからこそ取り組むべきプロジェクトだと考えます。


Vision

競技活動を通して養われる資質の社会的価値の最大化
〜 競技経験の高度化・競技力向上の追求・社会交流の促進 〜

金栗四三翁が生涯をかけて取り組んだランニングをツールとした「日本人の世界挑戦、若者の育成、健康スポーツ社会の創造」を具現化し、卒業後も社会の様々な分野で活躍できる学生アスリートの育成が本プロジェクトの使命であると考えております。

私たちは、学生アスリートを「高い競技能力と倫理観、スポーツ愛好精神に加え、高い教養と知的探究心をもって自身の能力開発を進め、将来的にはその経験を活かして社会に貢献できるような人材」を育成像として位置付け、その育成像の実現に向けて以下の3つのVisionを掲げています。

  • 競技経験の高度化 =トップアスリート・エキスパートを育成するための環境整備
  • 競技力向上の追求=各研究室の協力による医科学的サポート(教育・研究活動)の充実
  • ランニングを共通言語とした社会交流促進=知見・経験の提供による学生の気づきへの導き  

重厚な知識を土台とした競技力向上の追求により得られた高度な競技経験を通して養われた競技資質および能力は社会交流による本人の気づきと汎用化によってその社会的価値が最大化されることからも、これらの3つのVisionが独立することなく連動し融合できるような大学・地域・企業など学生アスリートを取り巻く全ての人々を巻き込んだ「共走」システムの構築が重要であると考えます。


Future

箱根駅伝プロジェクトが目指すもの
〜 学生アスリート育成プログラムの構築〜

以上のことから、箱根駅伝に向けた強化活動(競技経験の高度化)を核に研究室の協力による医科学的サポート(教育・研究活動)とランニングを共通言語とした社会交流を一つのパッケージとしてリンクさせた「共走」システムを構築することによって、本プロジェクトは学生アスリートの主体的な積極的取り組みを促し、競技資質の社会的価値の最大化を目的とした「学生アスリート育成プログラム」となり得る可能性があります。

そのような人材であれば、競技の世界から離れても、それぞれ活躍の場でリーダーシップを発揮し、周囲の範たる有為な人材となることが期待され、セカンドキャリアとして、教育界、スポーツ界、産業界、国際機関などでの活躍の可能性が広がります。

博士前期・後期課程やそこに設けられた様々な学位プログラムでの学びの機会が筑波大学には開かれております。将来的には本プロジェクトの可能性を信じ、体育スポーツ局をはじめ大学全体の協力のもと「豊かな人間性と創造的な知力を生涯にわたって養い、自立してグローバルに活躍できる人材」の好循環サイクルの構築に向けた「学生アスリート育成プログラム」へ発展させていくことを目指していきたいと思います。


学内外のサポーターの皆さまには、筑波大学男子長距離チームおよびそこに関わる全ての学生の未来を共に創り出す『伴走者』となっていただき、学生たちの人間的成長を一緒に見守っていただければと思います。

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